STORY TO EAST TIMOR
"it is very much a political issue
as much as a coffee issue"
2006年の暮、開店を間近に控えた自宅兼店舗を出て徒歩3分でインダストリアルなシャッターが大きく開け放たれたJasper Coffeeの焙煎所に着いた。夜には一人で絶対に近寄らない人気のない危険な路地裏だ。
ベンチで日向ぼっこをしていたCaffeine Dealerとロゴの入った黒いTシャツの男性に事前にアポを取ったことを伝えると社長のWells Trenfield と焙煎士達が出迎えてくれた。
思ったよりもこじんまりとした建物だが比較的新しく、中には見たこともない何十キロも焙煎できるであろう大きな機械が中央に設置されていた。一通りの焙煎所の説明の後、彼らが世界中から取り寄せたコーヒー豆を紹介してくれたのだがすべてのコーヒーをテイスティングするにはあまりにも種類が多く彼らがチョイスした銘柄も含め7種を選んだ。その中でもEast Timorのコーヒーは程よい苦さで酸味のバランスが良かった。
「OrganicでFair Tradeだよ」
「East Timorのコーヒーは特別なんだ」
と情熱的に話をしていた事も鮮明に覚えている。
その当時、オーストラリアでは東ティモール紛争やインドネシアとの問題がたびたび報じられていたためEast Timorという国の名前は何度も耳にしていたし、オーストラリアに近く、アジア圏内であるという事にも親近感がありこの国の豆を選ぶのは難しい事ではなかった。
メルボルンには戦後からのイタリア移民も多く年季の入ったエスプレッソ・カフェは数多く存在していたが、いつ頃からかオシャレな焙煎所やエスプレッソ・カフェが次々と現れ、その影響でJasper Coffeeはトレンドではなくなっていった。
私の店舗ではアンブレラ、サインボード、ウィンドバリアなどJasper Coffeeのロゴが大々的に宣伝してあり、必然的に店のイメージもそうなってしまう。 いっそのこと焙煎所を変えようかと迷った時期もあった。
しかし、開店以来10年間、Jasper Coffeeが焙煎したEast Timorのコーヒー豆1種類だけをエスプレッソコーヒーとして提供した。
Wellsが情熱的に語っていた言葉が消えることはなかったからだ。
― 今現在、Jasper CoffeeのWeb pageで似た様な言葉が書かれている。
長いあごひげをたくわえた彼の言葉を年月を経て今私はこの様に理解している。
「東ティモールという国からサステナブルなコーヒー豆を買うということは
東ティモールの人々が自分達の足で立ちそして生計をたてる事に繋がる。
それは我々の日々の暮らし方の問題を提起するというポリティカルな行動だ。」
問題を提起し、考え行動することが様々な豊かさであろうという自身の想いと相通じる。